林芳正の訪中まとめ(4.1-4.2)

 林芳正外務大臣が、4月1-2日の日程で、訪中した。秦剛外交部長、王毅政治局員、李強総理と面会が実現した。

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秦刚指出,福岛核污染水排海是事关人类健康安全的重大问题,日方要负责任地处置。美曾用霸凌手段残酷打压日本半导体产业,如今对华故伎重施。己所不欲,勿施于人。日本切肤之痛犹在,不应为虎作伥。封锁只会进一步激发中国自立自强的决心。日本是七国集团成员,更是亚洲一员,应正确引导会议基调和方向,多做有利于地区和平稳定的事,凝聚国际社会真正共识。

 (秦剛は、福島原発の「核汚染水」の海洋放出は、人々の健康安全にかかわる重大な問題であり、日本側は責任をもって処理しなければならないと指摘した。アメリカは、かつて強圧的な手段で残酷に日本の半導体産業を圧迫したが、今や中国に対してそのやり方を再び用いている。己の欲せざるところ、人に施すこと勿れ。日本は身に染みた痛みがまだあるのに、アメリカの手先となるべきではない。封鎖は中国をさらに自立自供へと向かう決心を高めさせるだけだ。日本はG7のメンバーであるが、アジアの一員でもあり、会議の基調と方向を正確に導き、地域の安定と平和に結びつくためになるようなことを多くなし、国際社会の真のコンセンサスを凝集していかなければならない。)

秦刚强调,台湾问题是中国核心利益的核心,事关中日关系的政治基础。中方敦促日方恪守中日四个政治文件的原则和迄今承诺,不得插手台湾问题、不得以任何形式损害中国主权。

 (秦剛は、台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、中日関係の政治的基礎にかかわると強調した。中国側は日本側に中日の四つの政治文書(1972年日中共同声明・1978年日中平和友好条約・1998年の日中共同宣言・2006年の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明)と現在までの合意を遵守し、台湾問題に介入してはならず、いかなる形においても中国の主権を傷つけてはならない。)

 他に、いわゆるアステラス製薬の社員拘束問題や、日中韓サミット、朝鮮半島問題についても協議した。

 やはり半導体規制は気になっているようである。日本が1980年代に日米半導体摩擦で大変な目に遭ったことを引き合いに出し、アメリカにあんな目に合わされたのに、手先になるのかと主張して、できるだけ日米離間を図りたいようだ。

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 続いて、王毅との会談。

  王毅表示,当前中日关系保持总体稳定,但不时出现各种杂音和干扰。根本原因在于日国内一些势力刻意追随美国的错误对华政策,配合美方在涉及中方核心利益问题上抹黑挑衅。此举在战略上是短视的,政治上是错误的,外交上更是不明智的。中国对日政策保持连续性和稳定性,愿同日方一道,以纪念中日和平友好条约缔结45周年为契机,总结历史经验教训,在中日四个政治文件基础上构建契合新时代要求的中日关系。希望日方回归缔约初心,重温条约精神,恪守条约原则,摆脱零和思维,以实际行动将两国“互为合作伙伴、互不构成威胁”的重要共识落到实处,共同把中日关系改善好、发展好。

 (王毅は、目下の中日関係は全体的には安定しているが、時々各種の雑音や干渉が入ってくると述べた。その根本的な原因は日本国内の一部の勢力が極力アメリカの誤った対中政策に追随し、アメリカが中国の核心利益にかかわる問題に泥を塗り、挑発することに協力しているということにある。このようなふるまいは戦略的に近視眼的で、政治的には誤りで、外交的にはなおのこと愚かである。中国は対日政策の連続性と安定性を保ち、日本側とともに、日中平和友好条約締結45周年を契機として、歴史の経験と教訓を総括し、日中の四つの政治文書を基礎として、新時代の要求に合致した中日関係を築きたいと考えている。日本側に、締結時の初心に帰り、条約の精神に立ち戻り、条約の原則を遵守し、ゼロサム思考から離脱し、実際の行動によって両国の「互いに協力のパートナーとなり、互いに脅威とならない」という重要なコンセンサスをしっかりと実現しすることで、ともに中日関係をもっと改善し、もっと発展させるよう望む。)

 やはり、西側諸国が一枚岩になるというのが、中国としてはやりにくいわけだろう。できればトランプ政権期のように米・欧・日がそれぞれの思惑でそれぞれ動いてくれる方がいい。なんならウクライナ戦争のせいで、西側諸国が結束し、とんだとばっちりだというのが、本音ではないか。

 最後に、李強との会談。李強はやたらにこにこしていたのが印象的であった。

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  李强指出,历史、台湾等重大原则问题事关两国关系政治基础,应该以诚相待、以信相交、妥善处之。中日作为重要经贸伙伴,在实现各自发展方面相互促进、彼此成就,利益深度融合。双方应该也完全可以做大经贸合作的蛋糕,在数字经济、绿色发展、财政金融、医疗养老等方面加强合作,实现更高水平的互利共赢。欢迎日本继续深化对华合作,共享中国经济发展红利,续写中日互利合作新篇章。亚洲是中日两国安身立命的共同家园。希望两国一道维护自由贸易,践行真正的多边主义,积极推进区域一体化进程,维护产业链供应链稳定畅通,共同减少不确定性、增添稳定性,为地区和世界发展作出应有贡献。

 (李強は、歴史・台湾など重大な原則問題は両国の政治基礎にかかわるので、たふぁいに誠心誠意、信義をもって交わり適切に処理すべきであると指摘した。中日は重要な経済貿易パートナーであり、各々の発展分野で互いに促進しあい、互いに成果を得ることで、利益は深く結びついている。双方は経済協力のパイをより大きくすべきだし、完全に大きくすることができる。データエコノミー・環境発展・財政金融・医療老人福祉などの分野で協力を強め、より高いレベルでのウインウインを実現できる。日本が引き続き対中協力を深め、中国経済の発展の利益をともに享受し、中日のともに利益となる協力関係の新しい一ページを切り開くことを歓迎したい。両国がともに自由貿易を擁護し、真の多国間主義を実践し、地域の一体化過程を積極的に進め、産業サプライ・デマンドチェーンの安定・円滑化を守り、ともに不確実性を減らし、安定性を高めて、地域と世界の発展のためになすべき貢献をすることを望む。)

 李強は、微笑外交で林外相を迎えたようだ。つまり、要求すべき話は、外交当局に言わせておいて、自分は経済協力に関する内容に重点を置いたということだろう。李強は、以前から経済協力に積極的であることは知られており、自らの役割分担としての発言と思われる。

 

習近平のロシア訪問 

 今般、20日から23日にかけての習近平国家主席のロシア訪問が、期せずして岸田首相のウクライナ訪問と重なったことで、やたらと注目を浴びた。また中央弁工庁主任を蔡奇が兼務したというサプライズ人事は、チャイナウオッチャーを驚かせた。ただ、習近平プーチン会談で何が語られたのかについては、もう少し注目が集まってもいいだろう。ということで、中国外交部のホームページから、何が議論されたのかについて、簡単に確認をしておきたい。これは、当然中国側が発表した内容であるから、ロシア側がアピールしたいポイントとはずれるということには注意が必要である。

 

 まず、習近平プーチン会談である。

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 面白いところをいくつか抜き出して、私訳を掲げる。

 双方要在涉及彼此核心利益问题上相互支持,共同抵制外部势力干涉内政。要加强在国际事务特别是联合国、上海合作组织、金砖国家合作机制等多边框架内的沟通协调,践行真正的多边主义,反对霸权主义和强权政治,促进全球疫后经济复苏,推动多极化趋势发展,推动全球治理体系变革完善。

 (双方は、互いの核心的利益にかかわる問題について相互に支持し、ともに外部勢力が内政に干渉することに抵抗しなければならない。国際的事柄において、特に国連・上海協力機構BRICSなどの多国間枠組みで連携協調を図り、真の多国間主義を実践し、覇権主義と強権主義に反対し、グローバルなポストコロナ経済復興を促進し、多極化へ向けた発展を推し進め、グローバルガバナンスシステムの変革し、十全なものにしていくことを目指す)

 よく習近平が言っている話ではある。中国は人権を口実とした「内政干渉」について神経をとがらせている。西側諸国によらず、真の「多国間主義」を実現する枠組みとして、上海協力機構BRICSなどが浮かび上がってくるわけだ。

 続いてプーチンの発言。

 俄方坚定支持中方在涉台、涉港、涉疆等问题上维护自身正当利益。祝贺中方成功推动沙特和伊朗北京对话取得历史性成果,这充分彰显了中国作为全球大国的重要地位和积极影响。俄方赞赏中方始终在国际事务中秉持客观公正立场,支持中方提出的全球安全倡议、全球发展倡议、全球文明倡议,愿同中方进一步密切国际协作。

 (ロシアは、断固として、中国の台湾・香港・新疆等の問題において、中国が自己の正当な利益を守ることを支持する。中国が、サウジアラビアとイランを促して北京の対話で歴史的成果を上げたことを祝福する。これは十分に中国がグローバルな大国として中庸な地位と積極的な影響を与えていることを示している。ロシアは、中国が国際問題上、客観公正な立場を維持していることを称賛し、中国が提案したグローバル安全イニシアチブ・グローバル発展イニシアチブ・グローバル文明イニシアチブを支持し、中国側とさらに密接に国際協力することを望む。)

 中国のいうところの核心的利益の中に、台湾・香港・新疆が含まれるのは当然のことであろう。このことについては、以前からロシアは中国の立ち位置を支持してきた。一方で、ロシアの「核心的利益」のなかには、クリミア半島が含まれるように思うが、このことは中国は一貫して支持していない。

 そして双方は「中華人民共和国ロシア連邦の新時代全面的パートナーシップを深化させることに関する連合声明」と「中華人民共和国主席ロシア連邦大統領の2030年までにおける中露経済の協力重点方向と発展計画に関する連合声明」に署名した。それぞれの内容は以下の通り。

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 まず、「中華人民共和国ロシア連邦の新時代全面的パートナーシップを深化させることに関する連合声明」について。

 全9パートから構成されている。第1パートでは、中露関係の基礎文献とでもいうべき条約に触れたうえで、冷戦後の中露関係の深化について述べられている。第2パートでは、それぞれの国がその「国情」に沿って発展する権利があるのであって、普遍的価値観を口実に内政干渉することに反対するとしている。その中に、

 双方同意协商举行公安、内务部部长年度会晤,加强在防范“颜色革命”,打击包括“东伊运”在内的“三股势力”、跨国有组织犯罪、经济犯罪、毒品犯罪等执法领域合作。

 (中露は、公安部・内務部(省に相当)の部長が毎年会談をもって話し合い、「カラー革命」の発生を防止し、東トルキスタンイスラム運動の「テロリズム」・「分裂主義」・「過激主義」を含む、国際的な組織犯罪・経済犯罪・薬物犯罪などに打撃を与える法執行領域で協力することに同意した。)

 とあるのは興味深い。第3パートは経済協力分野である。貿易・投資・金融・エネルギー・製造業・交通運輸・航空そして「一帯一路」についても言及がある。中露蒙三か国の枠組みについて言及があることも、注目に値する。2015年の中期計画と2016年の経済回廊計画がそれである。中露に挟まれたモンゴルは、戦略上非常に重要な位置にあり、また微妙なかじ取りが求められる難しい立場でもあろう。

 第4パートは文化交流についてである。留学・科学研究・文化交流・衛星医療部門での交流などについて触れられているが、

 双方高度评价2022-2023年中俄体育交流年取得的积极成果,将继续加强各领域体育合作,促进两国体育运动事业共同发展。中方支持俄方2024年在俄罗斯喀山举办国际电子竞技赛事“未来运动会”。双方反对体育政治化,希望发挥体育独特作用,促进团结与和平。

 (中露は、2022-2023年の中露スポーツ交流年が得た積極的な成果を高く評価し、各方面におけるスポーツ協力を引き続き強め、両国のスポーツ事業の共同発展をさらに促す。中国は、ロシアが2024年にカザンで開かれるE-Sports大会「Games of Future」を支持する。中露は、スポーツの政治家に反対し、スポーツが持つ独自の働きを発揮し、団結と和平を促進することを望む。)

 ロシアは、E-Sports大会をカザンで開催するらしい。この大会のHPの中国語版があって面白い。

gamesofuture.com

 双方欢迎国际奥委会和亚奥理事会有关倡议和决定,共同捍卫奥林匹克价值观,愿为符合条件的各国运动员搭建良好参赛平台。

 (中露は、IOCとアジアオリンピック理事会の関連する提案と決定について歓迎し、ともにオリンピックの価値観を守り、条件に合致する各国のアスリートに競技の良いプラットフォームを作ることにやぶさかではない。)

 これは、まさにロシアとベラルーシが、パリオリンピックから排除されそうになっていることに対する対応であろう。

 第5パートは今後の望ましい国際関係について述べている。覇権主義単独主義・強権政治・冷戦思考・陣営対抗や特定の国を対象とした小グループの形成に反対するとしている。貿易の自由化やテロ対策についても言及がある。

 双方对国际安全面临的严峻挑战深表关切,认为各国人民命运与共,任何国家都不应以他国安全为代价实现自身安全。

 (中露は、国際安全保障が直面している厳しい挑戦に深く関心を持ち、各国の人民の運命はともにあり、いかなる国も他国の安全を犠牲にして自身の安全を確保してはならないと認識している。)

 これは、いわゆる中国の「ウクライナ戦争における立場」においても表明されていた内容である。NATOの拡大がロシアの安全を犠牲にしてきたのだということをほのめかす主張になっている。

  双方谴责一切形式的恐怖主义,致力于推动国际社会建立以联合国为核心的全球反恐统一战线,反对将打击恐怖主义和极端主义问题政治化、采取“双重标准”,谴责打着打击国际恐怖主义和极端主义旗号以及利用恐怖和极端组织干涉别国内政、实现地缘政治目的的行径。应对“北溪”管线爆炸事件进行客观、公正、专业的调查。

 (双方は、すべてのテロリズムを非難し、国際社会が国連を中心とするグローバル反テロ統一戦線を形成するよう力を尽くし、テロリズムと過激主義に打撃を与える問題を政治化し、ダブルスタンダードをとることに反対し、国際テロリズムと過激主義に打撃を与えることを旗印として、またテロ・過激組織を利用して他国の内政に干渉したり、地政学的な目的を達成しようとすることを非難する。「ノルドストリーム」のパイプライン爆発事件に対して、客観で構成で専門的な調査が行われるべきである。)

 ノルドストリーム爆発事件は、ロシアからドイツへの天然ガス供給ができなくなり、ヨーロッパのエネルギー問題を悪化させた。この爆発事件の犯人が誰なのかについては、陰謀論も含めて議論百出状態であるが、ウクライナ側の犯行という説も出ている。

jp.reuters.com

 したがって、ロシア側としては、ダリア・ドゥーギナ爆殺事件と並んで、ウクライナ側を非難する格好の材料といえるのだろう。それに中国も乗っかったような形である。

 第6パートは、国際協力枠組みについてである。上海協力機構BRICS・中露印・中露蒙・ASEANの枠組みを重視すると述べ、貿易関係の発展を目指すとしている。また、これらのプラットフォームの政治化に反対する。

 第7パートは、大量破壊兵器についてである。「核保有国5カ国のリーダーによる、核戦争を防ぎ、軍拡競争を避けることについての共同声明」の意義を強調し、核戦争は闘ってはならず、真の勝者はいないと述べた。核拡散防止条約の重要性を確認し、AUKUSに対して深い懸念を表明した。福島原発放射能「汚染水」の海洋放出に対して国際原子力機関と関係各国の監督を受けるよう日本に促した。イラン核協議・生物兵器禁止条約について言及。第二次大戦時に中国に遺棄された化学兵器処理を日本に促した。アメリカがアジア太平洋に中距離ミサイルを設置することに深い懸念の表明。

 所有核武器国家都不应在境外部署核武器并应撤出在境外部署的核武器。

 (すべての核兵器国は、海外に核兵器を配置してはならないし、海外に配置された核兵器は撤去されなければならない。)

 これが、一部で話題になった記述である。なんとロシアは、習近平の訪露直後に、ベラルーシ核兵器を配置すると表明しており、あっという間にこの連合声明は空文化してしまったからである。なんというか、このように国家間の約束が軽い国だからこそ、簡単に国際法違反の戦争を仕掛けてしまえるのだというべきか。習近平は何を思うか。

 

www.bbc.com

 第8パートは、環境問題である。国連気候変動枠組み条約・パリ協定・生物多様性条約などについて双方とも積極的に取り組む旨の言及がある。また環境問題の政治化に反対している。

 第9パートは、ウクライナ戦争をはじめとする国際紛争に関係する内容である。

 双方认为,联合国宪章宗旨和原则必须得到遵守,国际法必须得到尊重。俄方积极评价中方在乌克兰问题上的客观公正立场。双方反对任何国家或国家集团为谋求军事、政治和其他优势而损害别国的合理安全利益。俄方重申致力于尽快重启和谈,中方对此表示赞赏。俄方欢迎中方愿为通过政治外交途径解决乌克兰危机发挥积极作用,欢迎《关于政治解决乌克兰危机的中国立场》文件中阐述的建设性主张。双方指出,解决乌克兰危机必须尊重各国合理安全关切并防止形成阵营对抗,拱火浇油。双方强调,负责任的对话是稳步解决问题的最佳途径。为此,国际社会应支持相关建设性努力。双方呼吁各方停止一切促使局势紧张、战事延宕的举动,避免危机进一步恶化甚至失控。双方反对任何未经联合国安理会授权的单边制裁。

 (中露は、国連憲章の主旨と原則は遵守されなければならず、国際法も尊重されなければならない。ロシアは中国がウクライナ問題において客観で公正な立場をとっていることを積極的に評価する。中露は、いかなる国家や国家集団が、軍事・政治その他の力で他国の合理的な安全や利益を損なおうとすることに反対する、ロシアは、できるだけ早く和平協議を再開することに力を入れることを重ねて表明する。中国はそれに対して賛意を示す。ロシアは、中国が政治・外交的な道筋を通してウクライナ危機を解決することに積極的な働きを発揮していることを歓迎し、中国が「ウクライナ危機の政治的な解決に関する中国の立場」という文書の中で述べられた建設的な働きについて歓迎する。中露は、ウクライナ危機の解決のためには、各国の合理的な安全に対する懸念を尊重し、陣営対抗状況を作ったり、火に油を注ぐようなことをしたりすることを防がなければならない。中露は、責任ある対話を行うことが問題解決の最も良い方法であることを強く指摘した。そのためには国際社会がこれに関係する建設的な努力を支持しなければならない。中露は、情勢を緊張させたり、戦争を長引かせたりする振る舞いを互いに停止し、機器がより一層悪化しコントロール不能になるのを回避するよう呼びかけた。中露は、国連安全保障理事会の議決を経ない一方的な制裁に反対した。)

 どの口が言うのかという感じである。中国はともかく、ロシアは戦争の当事者なのであるから、こんなことを言える立場にないはずであるが、のうのうとほざいている。外交的解決を拒んでいるのは、ウクライナとその背後にいるアメリカということにしたいということであろう。以前からの繰り返しではあるが、安保理議決なき制裁にも反対と表明している。ロシアが安保理常任理事国である以上、安保理議決が採択されることはないわけであり、意味のない表明である。

 その他に、NATOがアジア太平洋において関与を深めることに対する懸念・アメリカのインド太平洋戦略に対する懸念、朝鮮半島情勢における対話の促進、中東における各国の対話と和平、「カラー革命」に対する反対、アフリカ諸国に対する関与の強化などについて触れられている。

 

 

 

 

王毅のロシア訪問

 王毅のロシア訪問について、随時まとめていく。

 22日朝の記事。「中露戦略安全協議メカニズム双方の責任者が会談」

world.huanqiu.com

 王毅とロシアのパトルシェフが会談したという。ウクライナ問題についても議論。

 

 王毅はラブロフ外相とも会談。

3w.huanqiu.com

 パトルシェフより内容が突っ込んで報道されている。王毅は中露の新時代の全面的な戦略パートナーシップ関係をハイレベルで進めていく。国際情勢がいかに変動しようとも、中国はロシアとの新型大国間関係の良好な発展態勢を維持したいと考えている。ラブロフは、中国との関係を非常に重視しており、両国元首との間におけるコンセンサスをしっかりと実行する。戦略パートナーシップ関係を発展させる。国連などの多国間システムの中で協調し、ともに国連憲章の趣旨と原則を守り、覇権主義や集団対抗に反対する。

 

 そして王毅プーチンの会談である。

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 王毅の発言は以下の通り。現在の国際関係は非常に厳しいが、中露関係は国際的風雲の試練を経て、堅固に成熟し、泰山のように確かである。危機と混乱は、常に我々の目の前に現れるが、困難と機会は共存する。これすなわち歴史的弁証法である。中露の新時代の全面的戦略パートナーシップは、第三国を相手にしたものではなく、第三国の干渉は受けず、ましてや第三国の脅迫は受けない。中露関係は、しっかりした政治・経済・文明的な基礎を持っているため、そして歴史的経験から寛容さや冷静さを有しているため、さらに両国はともに世界の多極化と国際関係の民主化を支持していることが、時代の流れに合っているために、大多数の国家の願いに合致しているのである。中国はロシア側とともに、戦略的集中を保ち、政治的信頼を高め、戦略パートナーシップを強め、誠実に協力を拡大し、両国の正当な利益を守って、世界平和と発展の促進のために両国の建設的な力を発揮したいと考えている。

 プーチンは、王毅習近平主席に挨拶を伝えるように依頼した上で、以下のように発言した。中国共産党の20回大会は中国の発展の新しい未来図を切り開いた。現在露中関係は、規定目標に向かって前進しており、双方の各領域ならびに、上海協力機構・ブリックスなどの多国間組織の中における豊富な成果、国際事務の中で団結・協調を強めていることは、国際関係の民主化と国際システムのバランス・安定に重要な意義を持っている。

 双方は、ウクライナ問題について意見交換を深く行った。王毅は、ロシア側が何度も対話交渉によって問題を解決しようとしていることを高く評価した。中国側は、一貫して客観公正な立場をもって、危機を政治解決するために建設的な働きを発揮する。

 

 よく出てくるのは、国際関係の「民主化」というキーワードである。現在の国際関係を欧米列強によって作られた「非民主的」なものとみなし、国際関係の多極化を通じて「民主化」したいという意図である。この点で、中国は現状の国際秩序に対して「修正主義者」としてふるまっている。欧米列強によって作られた秩序は、多くのグローバルサウス諸国にとっても面白くないのであるから、彼らにとって魅力的なアピールをしなければならないのだが、現状そうなっているようには見えない。というのも、「民主化」された秩序というものの内実が見えてこないからである。

 各会談において、ウクライナ問題について協議したという発言は見えるが、実際にどのような発言を双方がしたのかということについては、不明である。非公開で詳細な中国の独自の「和平案」が提示されている可能性は、ないとは言えないが、高くはなさそうである。一方、極秘裏にロシア側に武器支援を提案した可能性も低そうである。

林芳正・王毅会談(2023.02.18)

 2月18日のミュンヘン安全保障会議の場で、G7外相会談や、林芳正外相と中国の王毅政治局委員との会談が持たれた。

 日本側の報道は時事通信によると以下の通り。

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 日本側は、最近話題の気球問題を持ち出したようだ。また、尖閣諸島台湾海峡問題・ウクライナ戦争について触れ、中国に責任ある対応を促したという。

 

 また、新華社の報道は以下の通り。外交部の発表と同じである。

www.news.cn

 日本ではあまり報じられないが、中国では連日福島原発処理水の放出が問題視されている。そのことについて王毅は懸念を提示した。一方で、今年の日中平和友好条約45周年に触れ、内外の干渉を排除して中国とともに歩むことを期待している。一国主義やサプライチェーンの切断は双方の利益にならないと主張した。

 対中半導体規制については、撤回してアメリカと共同歩調をとらないでほしいという要請と読むのが自然だろう。

 中国の外交方針は、全体的にはソフト化しているように見えるし、日本に対してもきつい物言いではなくなっている。できれば日本や欧州には、アメリカと共通歩調をとるのをやめて中国とのつながりを続けてほしいということだろう。

 また、新華社の報道の最後に

双方还就一些国际地区问题交换了意见。

 とあるのは、日本側が持ち出した気球問題などのことを含んでいるのだろう。

 

 

環球時報社説(2023.02.21)「中露の友好、それは世界のポジティブな財産だ」

 2月21日の中国共産党機関紙、人民日報の姉妹紙『環球時報』の社説「中俄友好,这是世界的正资产(中露の友好、それは世界のポジティブな財産だ)」の内容を紹介する。

opinion.huanqiu.com

 要旨は以下の通り。

  • ロシア・ウクライナ戦争の勃発一周年に当たり、西側国家が中露の「同盟」を喧伝したり、中露の「友好は久しくない」と離間を図ったりしている。アメリ国務長官ブリンケンの「中国が致死性の武器を提供しようとしている」という根拠のない宣伝は、世論を盛り立てて中露の正常な交流に圧力をかけるためである。
  • アメリカは、中露の友好関係をひどい色眼鏡で見ている。実際、ウクライナ戦争が起ころうと起こるまいと、アメリカは中露の友好関係発展の妨害をずっと試みてきた。
  • アメリカは地政学的な私心から、ウクライナ戦争をあおっており、これが停戦できない原因である。中国と各国の関係を発展させることは、もともと私心なく公明正大なものであった。ちょうど、王毅がブリンケンとの会談で直接「中露関係のパートナーシップは、同盟しない、対抗しない、第三国を対象としないという三原則の基礎の上に立っており、二つの独立国家の主権の範囲内の問題である」と言ったようなものである。アメリカは、中露関係に口を出す資格もないし権利もない。
  • 王毅ミュンヘン安保会議でウクライナのクレバ外相と会見した。ウクライナは、中国の政治的交渉によって危機を解決するという立場を重視し、中国に対して建設的な役割を果たすよう期待していると述べた。ゼレンスキーは北京がモスクワに軍事援助を行っている証拠はないと述べた。
  • 中国はウクライナ危機の長期化・拡大を望まない。これは十分誠実な態度である。ウクライナ戦争勃発当初、中国は「四つのすべき(四个应该)」を提起した。①各国の主権と領土の一体性は尊重されるべき②国連憲章の趣旨と原則は遵守されるべき③各国の筋の通った安全についての関心は尊重されるべき④すべての機器を平和的に解決するのに役立つ努力は支持されるべき。中国は一貫して、戦争に勝者なく、複雑な問題に簡単な解法はなく、大国の対抗は避けられなければならないと主張してきた。

 中露関係についての社説であるにもかかわらず、アメリカを意識した内容である。若干苦しいのは、中国はウクライナ戦争の拡大を喜んでいないとしつつも、中露関係を発展させることで停戦に資することができるのかということについてきちんと説明が与えられていないことであろうか。中露関係を発展させることは、確かに中国自身の外交戦略としてあるだろう。それが、後段のウ露間の和平につながるものになっていないという点が、西側の不信をあおっているのではないのか。中露関係が不安定化する、例えば対抗関係になることのほうが世界の平和にとって良くないのだと主張するなら筋も通るだろうが……

 同じような主張は、外交部長秦剛の発言にもみられる。

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 特に「今日のウクライナは明日の台湾」というフレーズには強烈に不快感を示している。中国は、痛くもない腹を探られるのは勘弁してくれと思っているのか。